--父親の子育て--
少し前に厚生労働省が、有名人を起用した「育児をしない父親は父親ではない!」というキャッチフレーズのキャンペーン・ポスターを作っていましたが、覚えていますか?これは、育児を母親任せで全く省みないような最近の父親に訴える内容なのですが、一体何人の父親が、このようなポスターのキャンペーンで反省させられるのでしょう。
大半の父親は一日の仕事を終えてくたくたになって夜遅く帰って来て、ウイークデーに育児をするような余裕はほとんど無いでしょう。また、土日は疲れをいやすためごろごろ寝ていたいというのが現状でしょう。ですから、たとえその気が有っても、なかなか時間的体力的な余裕が無い、というのが正直なところでしょう。また昨今の不況によるリストラにより、被雇用者側からの労働条件の改善要求が通りにくくなっている現状では、ますます父親を育児から疎外させる方向に傾いているようです。
少し上の年代の父親世代では、子育ては父親などがやるものではない、と女性蔑視そのものを子育てという行為に重複させているかのようにうそぶいている方もおられました。その先輩とは、さる精神科のドクターですから、もはや何をかいわんや、でしょう。
少し異なる例として、最近はやりの?「できちゃった婚」夫婦では、まだ自分達自身の生活能力が無いだけでなく、考え方そのものが幼いために、全く子どもに関心が無く、今まで通りに友達とほっつき歩いて時間をつぶしているといった父親にお目にかかることがあります。このようなヤンママ・ヤンパパのカップルでは、往々にしてその親達(つまり赤ちゃんの祖父母に当たる世代)が目に中に入れても痛くないといったかわいがり方をして、孫の子守をしている光景を目にすることがあります。そういう光景を見ていると、一体、本当の親は何をしているのか、と他人事ながら腹立たしくさえ思えることがあります。二世代に渡って間違った育児を実践しているのです。
このような、上に挙げた三通りの状況が、父親自身の問題から来る育児放棄の原因でしょう。一方、日本の社会状況から来る、父親による育児に対する逆風も相当根強いものがあるように思います。たてまえとしては「男女同権」を唱っていても、実情とはほど遠い、という日常生活をよく目の当たりにします。女性の方にも「甘え」があるようで、むしろ波風を立てないような楽な方へなびいてしまうことが多いようです。また、日本には昔から「髪結いの亭主」などという言葉もあり、本来女性が当たるべき立場に甘んじているような男性を不甲斐ないとみなして、これを軽蔑するような風潮があります。また、これの関連してもともと女性の仕事とみなされていた看護師、保育士の仕事に男性が参加するということに対しても、まだまだ世間の風当たりは強いのかも知れません。
父親の子育てと言えば、筆者がカナダに居た時に知り合った人達の中に、ジョンさんとラウルさんという2人の大変印象深い父親達が想い出されます。当時筆者の家族はタウンハウスという長屋風の集合住宅の一軒をレンタルしていました。彼らの家族も同じタウンハウスの別棟に住んでいて、知り合ったのはお互いの子どもたちが遊びで出入りするのがきっかけでした。
ジョンさん夫妻はアフリカのボツワナで英語教師をしていて帰国したて、ラウルさん夫妻はアルゼンチンのブエノスアイレスからで、物理学者である奥さんのグラディスがカナダに留学していました。ジョンさんの奥さんドナさんは当時大学でコンピューターの勉強をしていてとても忙しく、また故郷では牧童頭だったラウルさんはカナダでは無職でした。そしてこの二人の父親達は、その時点で完璧な父親による子育てを実践しておりました。
ジョンさんにはまだ赤ちゃんのリアム君を入れて、またラウルさんにも3歳のクァンチョ君を入れて、それぞれ小学校4年生以下の3人の子ども達がいました。これに我が家の小学校3年生以下の4人の娘達が加わると総勢10人の子どもたちの実にやかましい大合唱が始まります。しかし彼らは鼻歌交じりで喜々として子育て、いや、子どもと過ごすゆったりとした時間を存分に楽しんでいました。誰一人彼らを好奇な目で見たりする人はいませんでしたし、彼らも全くくったく無く自分たちの日課をこなしているだけでした。お天気の良い休日ともなると、タウンハウスの広い中庭で、カナダ、アルゼンチン、日本のちびっ子達の全員参加による国際大縄競技が大歓声とともにうなりをあげて始まるのでした。一体誰がそんな大きな大縄を回すのかですって?もちろん、身長180cmを優に超える二人の屈強な大男達、ジョンさんとラウルさんなのです。日本では到底考えられない光景でしょう。
日本の職場では、やや誇張した見方かも知れませんが、勤務時間を超えて遅くまで仕事をすることが美徳とされ、正規の勤務時間が終わるや否や帰宅しようとする者をまるで悪いことをしているかのような目で見る風潮があります。それ自体が育児をしながら仕事をしようとする女性を疎外する考え方であり、ましてや男性の育児などは論外とも見られる暗黙の規制なのです。まず女性が家庭や子どもを持っても気楽に働けるような職場の体制を確立しなければならないでしょう。
一体何のために仕事をするのか、また十分な休養や余暇を取らずに働くこと自体が逆に最も非効率的であるということを、もう一度よく考えてみる必要があるでしょう。昨今、ミニバンをはじめとするRV車がよく売れているそうです。子どもを自然に触れさせて父親の育児を実践しようとする意欲の現れなのかも知れません。しかし、そのための余暇は十分に取れるのでしょうか。また、自然を求めてRVで行く場所は果たして十分にあるのでしょうか。かけ声と意欲だけはあっても、日本の貧しい現状では、共に夢を追うだけに止まってしまいそうです。
(写真は、カナダ・アルバータ州にあるロイアル・ティレル・ミュージアムの中にあるトリケラトップスの巨大な骨格標本の前で・・)