ドク・オーチャンの独り言(その20)


--桑の実--

 子どもの頃で、もうずいぶん昔の事だから、あまりよく覚えていないところもあるのですが、確か6〜7月の頃だったと思います。桑の実が赤紫に熟すのです。 
 昔は絹糸をとるために、どこの家でもを飼っていて、その餌として桑の葉がたくさん必要でした。ですから、どこの農家にも桑畑というのがあって、桑の木がたくさん栽培されていました。

 桑の葉はハートの膨らんだような形だったと思いますが、子どもの手のひらサイズの葉です。モスラのモデルは蚕の幼虫そのものですが、あれがボールペンの太さくらいまで小さくなって、桑の葉を食べていると想像してみて下さい。

 筆者の家では当時蚕は飼っていませんでしたが、大きな桑の木は何本か丘の上に並んで生えていました。そして、苺の実が終わった頃に、桑の実が熟すという順番でした。しかし、桑の実は、大人は誰も食べませんでした。子どもたちだけが桑の木によじ登って、まるでブドウのミニチュアのように実った桑の実を手当たり次第に頬張るのです。

 「赤とんぼ」という童謡の歌詞に「山の畑の桑の実を・・」という部分がありますが、この桑の実のことです。黒っぽい赤紫色に熟した桑の実は、独特の甘い味で野趣豊かな風味という感じですが、すぐにつぶれて崩れやすいので、市場に出回ることはまずないでしょう。受精卵の分裂時期で「桑実胚」という時期がありますが、あれがまさに桑の実が熟した時のように、ぶつぶついくつもの細胞がふくらんでくっついた状態なのです。

 この桑の実は、実はあまり大人には好かれないようです。その理由は、この実をたくさん頬張ると、赤紫色の果汁が口の中を紫色に染めて、唇まで紫色に染まり、チアノーゼの色になってしまうからです。そして、手でつかんだ先から果汁が飛び散って衣服に付いて、しっかりと赤紫色に染みができます。どんなに注意して食べようと、しょせん子どもの仕業でしかないので、桑の実を食べたという証拠は絶対に隠しおおせるものではありません。いつも、シャツに紫の染みを付けて帰ると、「桑の実を食べただろう」と言って母に叱られた覚えがあります。

 でも、子どもの頃は、けっこうおやつ代わりによく食べていたものでした。別名「桑苺」とも言われ、苺が終わると桑苺の季節という楽しみの一つでした。ときたま、木に登っていると蛇の頭と出くわしてびっくりすることもありましたが、蛇も桑苺が大好きで、よく木に登って食べていたようです。

 この桑苺の季節が終わると、次は「スモモ(李)」の季節がやってくるのです。これはちょっと酸っぱいのですが、やはり木によじ登って食べていた覚えがあります。何だかお猿さんのようですね。そういえば、申年ももう半年過ぎてしまいました。昔の山里の子どもたちは、皆野生のお猿(ましら)のように木に登ったりして遊び回っていたのでしょう。

(今月は、ちょっと体調を崩して、アップロードが遅れましたことをお詫び致します。写真は夏草です)



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