ドク・オーチャンの独り言(その22)


--お盆-- 

 今年もお盆の季節がやってきました。
 筆者の小さい頃は、毎年、8月13日の昼間にお墓の掃除をして、周りの草を払い、墓石の前にすだれを敷いておめかしをしたものでした。そして家の庭に咲いているグラジオラスリンドウなどの花を束ねてお墓の前に生け、畑で採れたてのナスキュウリなどの作物を里芋の大きな葉っぱに乗せてお供えしました。墓地の周りの雑木林ではアブラゼミがせわしなく鳴いていました。

 家の中の仏壇もきれいに磨かれます。お灯明お線香立てなどもピカピカに磨かれて、ご先祖様の霊が数日間お休みになられる場所を、最高にきれいにしておくのです。仏壇の前には、畑で採れたスイカメロントマトトウモロコシなどの野菜と、ブドウなどの果物が、所狭しと色鮮やかな艶を競っているようでした。
 仏壇の上にはお盆の提灯が下げられて、繊細に描かれた夏のお花の模様が、ゆらゆらと揺れる中のろうそくの光で浮かび上がってくるのでした。家の中には果物の甘い臭いとお線香の臭いと、夕げのご馳走の臭いが漂ってくるのでした。

 この日ばかりは、ふだん怖くて近寄れなかった日暮れの墓地は、子どもたちの奇声や大人の話し声が聞こえ、まるでお祭りのようなにぎわいを見せるのです。子どもたちは浴衣を着て、手には小さなに塗られた盆提灯をぶら下げて、自分の家のお墓や親戚のお墓を回ってお参りするのです。中には、お墓にお供えされたお菓子きな粉餅などを所かまわずつまみ食いをして回る不届き者もいました。しかし、この日ばかりは誰もそれをとがめようとはせず、笑って見過ごしていたものでした。

 そして、年に一度地獄の釜の蓋が開き、ご先祖様の霊がお盆の3日間だけ家に戻って来ると言われていました。お盆の夜には、少し遅くなってもスイカメロンアイスクリームなどを食べても叱られませんでした。大人も夜遅くまでビールを飲んだりしていたようです。

 こういう、年に数回の羽目を外したお祭り騒ぎの時は、この上なく楽しく、また子ども心に本当にあらたかな気持ちがしていたことを憶えています。

 今は、ご先祖様が残した郷里を離れ、お盆のお墓参りには行けません。家の仏壇にお灯明を灯してお参りするだけになってしまいました。

(写真は上高地河童橋付近からの穂高連峰のながめです)



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