--刈り入れ時--
10月は刈り入れの時です。筆者の子どもの頃は、稲刈りは10月頃で、今より遅かったと思います。良く晴れた日が続き、稲穂が黄金に輝いて垂れた穂先がそよぐ秋風に揺れる頃、家族総出で朝早くから稲刈りが始まります。
筆者も、子どもながら、稲刈りに駆り出された事を想い出します。刃先にノコギリのようなギザギザの波目が付いた稲刈り鎌を持って、一株ずつを鷲づかみにして根本からザクザクと刈り取っていきます。何株分かを束ねて一束にして、数本のワラで括ります。稲束がどんどん積み上がってくると、今度はそれを背中に背負えるだけたくさん背負って、丘の上に立てたハゼの下まで運びます。
ハゼというのは、刈り取った稲を効率良く天日で干すために立てる木と縄とで組み上げた砦の防護壁のようなものです。もともと、10メートル程の間隔でほぼ垂直に植えてある大きな桐や柿の木(筆者の家ではそうでした)を基礎にして作られる事が多いようです。そういう、木々の間にまた補強用として、長さ5-6メートル以上はあるような太い棒材を地面に立てて、隣同士の立て木に更に横木を何本か縄で結わえ付けて枠組みを作ります。最後にこれに縄で縦横1メートル四方位になるような編み目を付けて出来上がりです。
このハゼに、刈り取ってきた稲束をワラの結び目を軸にしておよそ半分に分けて、横に張った縄の上から跨がせるように置いて並べて行くのです。こうして、稲束を全部ハゼに掛け終わると、高さ5-6メートル、長さ50メートル程の巨大な黄色い稲穂の壁が出来上がるのです。
この大きな稲穂の壁は、1週間位はそのままだったと思います。この間、子どもたちにとって、このにわか造りの砦の壁は絶好の遊び場になりました。夕暮れ時の隠れんぼの隠れ場所として、この稲穂の壁の中が実に面白いのです。天日に干された稲ワラの臭いや蒸かしたサツマイモや栗の実の臭い等が混ざり合い、西の青い山々の彼方に沈む夕日や熟しかけた柿の実や赤とんぼの緋色が鮮やかに視界を彩っていた、興奮に満ちた子どもたちの秋のひとときがありました。
このような秋の風景は、恐らくそれまで何百年も続いていたものでしょうが、この数十年間でほとんど見られなくなってしまったのではないかと思います。何でも便利になり、暮らしやすくなってきたのでしょうが、果たして、秋の夕暮れ時のあの稲穂の臭いでむせ返る極彩色の興奮を、今の子どもたちは味わうことができるでしょうか。もはや日本の秋のノスタルジック・ファンタジーの世界です。
(写真は既に紅葉した灌木です)