
2002年の夏がやって来ます。
ドク・オーチャンは小さい頃、ホットな夏が大好きでした(でも春も秋も冬も大好きだったのですが・・)。
梅雨の合間のうっとおしく暑い空に、夏の到来を告げるニイニイゼミの甲高い鳴き声と共に入道雲がムクムクと湧き上がるのを見ると、胸がワクワクでした。ああ、また一年ぶりにたくさんの小さな友達に会える、というとても嬉しい気持ちデいっぱいでした。
「小さな友達」というのは、一体誰のことでしょう?それは、夏の草いきれの中で出会えるいろいろな虫たちや川で泳ぐ魚やカニや貝たちです。アブラゼミやミンミンゼミは朝早くからやかましく鳴き始め、おしっこを振りかけながら木々を飛び移り、草むらではお腹の大きなキリギリスがギリギリと自慢のビオラを奏で始め、夜ともなれば開け放った家の台所の裸電球目がけてカブトムシのペアーがデートに盛り上がりブンブンうなりをあげて突進して来たものでした。
夏の午後、田んぼのあぜ道に植えた枝豆を取りに行くと、黄緑色のかわいいアオガエルやだんだら模様の大きなトノサマガエルやらが大騒ぎをして水に飛び込んで行きました。その帰りに大きなクルミの木の幹を見上げると、クワガタムシやカミキリムシが何匹か美味しそうに樹液を吸っている喫茶店を覗くことができました。
夏の夕方、ヒグラシの「カナカナカナカナ・・」という鳴き声を聞きながら、夕映えの林の中で見つけて来た地面から這い出たばかりのセミのサナギを大事に持ち帰って来ました。そしてそれを虫かごに入れて、翌朝日の出前に眠い目をこすりながら起き出して、サナギが孵化するのをじっとながめていたものでした。サナギの背中の正中が左右に割れて中からゆっくりと成虫が脱皮して出て来るのです。脱皮している最中のセミの色は、見たこともないような鮮やかな青白い蛍光を放つ神々しさを持った色でした。それが夏の朝日を浴びると次第に本来のセミの成虫の色へと変わって行くのです。この自然の見事な光景を見ると、寝ぼけまなこが途端にシャキッとさせられました。夏の小さな生き物たちは、子どもたちの心に忘れられない感動を与えてくれたものでした。
また、水面に大きく張り出した名も知らぬ広葉樹の大きな葉陰から、午後の涼みに寄ってきた鯉や鮒たちの銀色の鱗が時折水面下できらめくのを見ると、釣り心がゾクゾクとそそられたものでした。
信濃川に注ぐいくつかの支流の一つが子どもたちの夏の水遊びの場になっていました。大きな石を積み上げて作ったダムの水たまりの中で素っ裸で泳いでいると、アユやニジマス?たちが身体をさっとかすめて通り過ぎて行ったものでした。夏の小さな生き物たちが、子どもたちに一瞬の心のときめきを与えてくれるのです。
今の子どもたちにはほとんど想像もできないような、こんな光景がドク・オーチャンの子どもの頃の田舎にはまだいくらでもあったのです。ところが、とても残念なことに、これらの夏の小さな友達はみんな人間達のエゴのためにほとんど消え去ってしまいました。今ではクワガタムシやカブトムシは倉庫の培養ビンの中で育てられ、お店で売られています。お金を出せば何匹でも、また昔の自然の中にいたものよりもはるかに大きなものが手に入るでしょう。
しかし、そういう虫たちは、もはや自然の中では生きられない、子どもたちにとってただの動くオモチャでしかありません。虫たちは夏になるとたくさん売り出されるようですが、見方によっては、人間のエゴの産物を子どもたちに売りつけている、とも言えるでしょう。夏の自然の中でジリジリと太陽に照りつけられて汗をかきながら手製の捕虫網を片手に野山を歩き回り、大きな木の緑の木陰で一陣の涼風にほっと一息ついたところで見上げた木の太い幹にノコギリクワガタの勇姿を見つけた時のあの感動は、とうていお金では買えないのです。
テレビゲームや携帯電話にのめり込んで日夜の区別が付かなくなリ、不眠や体調不良を訴える子どもたちが増えているそうです。テレビゲームは手っ取り早く子どもたちに感動を与えることができるかも知れません。しかし、それはやはり人間のエゴによって仕組まれ仕掛けられた人工の感動でしかないのです。虫たちが小さな命の営みを危険にさらしながらかい間見せてくれる感動のドラマとは全く異質のものです。テレビゲームや携帯電話にのめり込んで行く子どもたちの心の中にまで、コンピューターのデジタル的に仕組まれた思考方法・思考過程が侵入して染み込んで行ってしまうような気がしてなりません。
かつて夏の大自然の恵みを謳歌していた小さな生き物たちはもはや幻となり、私たち大人のノスタルジアの空想世界でしか、あるいは培養ビンの中でしか生きられない存在になってしまいました。いや、ひょっとして、今や子どもたちさえも、パソコン、テレビゲーム、ケイタイで仕組まれたヴァーチュアル・リアリティのITワールドの中で、ほとんど飼育・培養されているようなものではないでしょうか。ゾゾー・・・。
(写真はシェークスピア劇の「真夏の夜の夢」のワン・シーンです。妖精の王オベロンと女王タイタニアを囲んだ無数の妖精たちが描かれています)